ツチノコハウス

穏やかな入江に面した山間の、とても美しい集落に建つ住宅です。

若いクライアントご夫婦が求めた住居は、単に快適に過ごすためのプレーンなものではなくて、人生をより楽しく豊かにするためのものであること、そして高い精神性を感じることができる空間が存在する、というものでした。

このリクエストに応えるために、ランダムな方向を向く壁面によって迷路性を持った空間を創り、豊かな体験をもたらしたいと考えました。この壁の構成は、一見、無計画に見えるかもしれませんが、実は敷地の特性に合わせ、光と外部への視線を巧妙にコントロールするように計画されています。

海や緑、広い空といった豊かな自然をより身近に感じるために、大開口部を持つスペースを用意し、これを「陽のスペース」と名づけました。また、あえて豊かな自然の要素を視界から消去することで精神に働きかけるために創った「陰のスペース」と名付けた空間は、壁に囲まれて閉鎖的ながらも、隣接する「陽のスペース」から間接的に光が漏れてくる、徹底的に抽象的で印象的なものになりました。ここは、ご夫婦が愛する音楽や絵画などの芸術を、よりピュアな状態で楽しむための空間となります。

この、陽のスペースと陰のスペースは、明確に区切られているワケではなく、隣り合って存在するために数歩で行き来することが可能です。部屋から部屋へという感覚ではなく、わずかな移動で風景や光の質が大きく切り替わるという体験は、通常の住宅ではなかなか得られないものです。

建設中にお子さんが誕生し、3人家族となったクライアントご家族がこの住宅をどのように住みこなしてくださるのか、、、当初求められた芸術性がどのように生活の中で昇華されていくのか、我々も楽しみに見守っていきたいと思います。